DWFTTW問題については、つまるところ「ヨット等の風力で移動する乗り物は追い風の風速よりも早く走れるか」ということです。
件のサイトで紹介されているのは、プロペラと車輪を使った模型ですが、まずは一般的なヨット等の帆船で考えて見ましょう。
安直に考えると、パラシュートのように風の抗力を受けて船を走らせているように考えがちですが、それだと風下方向にしか進めません。
こういった形態(のみ)の帆船はかなり原始的な部類です。
もちろん、現在でも外洋を航海する大型帆船には横帆と呼ばれるものが沢山付いていて、これは主に風の抗力で風下に進むためのものではあります。
また、ヨット等でも、風下に向かって進む時はスピネーカーと呼ばれるパラシュート状のセイルを船首部分に出します。
しかし、風上方向(完全に風と対向する訳ではなくあくまで斜めまでですがね)にも進むことを考えると、これ「だけ」ではまずい訳です。
そこで、最初にも書いたように、帆を飛行機の翼のように利用します。
そうすると風向きと直角方向に「揚力」を得ることが出来ます。
揚力は風向きと「直角」方向に働く点が味噌です。
直角ですので、風が真正面以外から吹いてくれば、多少なりとも前進方向の力を取り出すことが出来ます。
#実際には抗力とのバランスなどがあるので±2〜30°ってところが限界だとは思います
この原理を、横方向から風が吹いている状態で図解したのが下の図です。

真ん中にあるのがヨットで円弧っぽいのが帆だと考えてください。
青い矢印は風をあらわしています。
これはヨットが静止している状態で、横からの風は風に垂直な揚力=進行方向の力と風と同じ方向の抗力に変換されます。
横方向の抗力は船の水に対する抵抗でほぼ打ち消されるので、ヨットは前に加速しますね。

そして、これはヨットが風速以上の速度で進んでいる場合の図です。
風向きは変わらず真横からですが、ヨットが前進しているのでヨットに固定された帆にとっては前からヨットの艇速と同じ風速の風が吹いているのと同じことになります。
ですので、実際の横からの風と合わさって、斜め前方から風を受けている状態になります。
しかしながら、この状態でも静止時より効率は落ちますが、図に示すように揚力は前方方向への力も発揮しています。
抗力と揚力の成分をさらに分解・合成すると、この図では前向きの力と左向きの力に集約されます。
左向きの力は上でも書いたように水の抵抗などで打ち消されるので、前進方向への力だけが残りまだ加速できるわけです。
もちろん、同じような設定でも、帆の性能や張り方次第では抗力成分の方が強く出て前進方向への力を得られない可能性はありますし、この図のような揚力/抗力バランスだとしてももっと速度を上げれば合成風の向きはさらに前方向に傾くので、最終的には加速できなくなります。
ただ、これらの図を見ていただければ、理論上風速よりも速く進むことが可能だということは理解していただけるかと思います。
つまり、セイル等船の性能次第では風速を超えるスピードを出すことは充分可能なわけです。
#実際には若干追い風くらいが一番スピードを出せるはずです
ここまでは、横方向からのケースを説明してきました。
しかし、DWFTTW問題と言うのは「追い風で」という条件が付きます。
では、完全な追い風の場合を考えて見ましょう。
完全な追い風の場合は揚力=風に垂直な力ですので、これはまったく船の推進に役に立たなくなります。
ですから、船の推進には抗力のみを使うことになります。
こちらは図を描くまでも無く、船のスピードが風速と同じになった段階で船上では無風になってしまうことがお分かりでしょう。
つまり、風速を超えた段階で今度は船を減速する方向に力がかかってしまうので、船はそれよりも加速できないのです。
ですから、単純な帆を使う限り、絶対に完全な追い風では風速以上の速度は出せないことがわかります。
とはいえ、主にヨット乗りの方は「DWFTTWは可能だ」と主張される場合が少なくありません。
上で書いたように理論上は絶対無理です。
もし、実際可能なのだとすると、以下のような理由が考えられます。
・海面付近と帆の位置で風速が異なる
・風速の「むら」によって瞬間的には風速を超えることが可能
・実際には完全な追い風ではなく、多少斜めに航行している
まあ、現実問題として、ヨット等はレールの上を走るわけではありませんから、完全な追い風にはならないように操船することが出来まる訳で、最後のやつが主な理由だと推測します。
このように考えれば、トータルとして「DWFTTW出来ている」ともいえるわけですね。
最後に、件のサイトで紹介されている、あの模型についてですが、あれは帆走しているのとはちょっと違います。
向こうのコメントにも書いたことですが、ビデオを良く見るとプロペラピッチの関係から、追い風を動力にして車輪を駆動しているというわけではなさそうに見えます。
つまり、逆に車輪の回転力の一部(つまり車体の運動エネルギーの一部)をプロペラの駆動に当てて、微弱な推進力を得ていると考えられます。
こうすると、追い風より若干早いスピードでも風による抗力を受けられます。
ですので、もしかすると理論上(若干ではありますが)追い風よりも速い速度で走ることが出来るのかもしれません。
ただ、実際にはプロペラの駆動にエネルギーを割かれる=減速するということですので、その減速分とプロペラを駆動することによる加速分がどの程度あるのかという話になってきますね。
計算すれば理論上可能なのかどうか出せるかもしれませんが(ちょっと大変ですのでやっていません)感覚的には損失などが大きすぎて無理なんじゃないかと思います。
ビデオのケースは、何らかのトリックを使っているか、瞬間的な強風によって追い風以上の速度を出せているか、微妙な下り勾配を持った道路で走らせているかということではないかと思います。
どうせやるなら、風洞実験でもやってくれればわかりやすいんですけどね。(まあ風洞を使うとなると大学や企業じゃないと難しいですし、逆に室内のためトリックも施しやすくなってしまいますけどね)
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